デニス・メドウズ氏とは旧知の間柄であり、
また小社社長 庄司昭夫とも環境問題に関するインタビューをきっかけに
交流のある枝廣淳子氏のコーディネイトによって開催された今回のフォーラム。
全体で2時間という非常に限られた時間ではありましたが、
未来に向けたシンプルで密度の濃いお話をお伺いできたと思います。

おかげさまで今回も、入場お申し込み受け付けの段階で、定員500名の会場が満席になりました。あいにくの悪天候にも関わらず開場を待ち受けていらっしゃった方々は、20歳代からご高齢の方まで、男女を問わずに年齢も幅広く、もはや環境問題が広く、切実な関心事になっていることを実感させられました。

小社社長 庄司昭夫から、世界の現況を知り、今後の道標を発見できたら素晴らしいと思うし、また1つでも2つでも持続可能性のために実行できる事柄を見つけ、それを継続して再びデニス・メドウズさんに会えるようになれば、という主旨の挨拶が、ご来場の皆さんに贈られました。










のちほどデニス・メドウズさんとの対談のために再び登壇する予定の枝廣淳子さんは、冒頭、当フォーラムでの自分の役割を“サンドイッチのパン”に例えられ、中身のデニス・メドウズ氏をできるだけおいしく盛り上げていきたいとおっしゃっていました。しかし、その魅力的な人となりと、地球温暖化問題のアウトラインの手際よい解説は、素晴らしく印象に残るものでした。

枝廣淳子さんの講演の主旨は
1. 自己紹介、活動の紹介
2. 地球温暖化の現状と展望
3. その問題の構造や本質を捉えることが大切
4. 地球温暖化は、人類の変化のための史上最大のチャンス
ということでした。
講演の主旨を反映していると思われる部分を4ヵ所、抜粋してご紹介します。

★自分を前進させ続ける仕組みと時間の使い方の工夫が大切
29歳のときに渡米し、2年間勉強をして通訳になった経験から、大切な2つのことを学んだ。ひとつはどうやって自分を前に進め続けていけるか、最初の熱い気持が消えても淡々と、着々と進めていく仕組みが必要だということ。もう一つは、時間の使い方の工夫。これらは環境問題に取り組んでいくときにもすごく役に立っている。社会や世間がいつも注目し続けてくれるとは限らないし、時間ももうあまり残されてはいない。

★確実に昂進し続け、影響を強めている地球温暖化
IPCC(気候変動に関わる政府間パネル)の報告によると、過去100年間に地表の平均気温は0.74℃上昇している。そのため、南太平洋の小さな島国ツバルは、海中に消滅してしまう危機にすら晒されている。このままの状態が続けば、今世紀末までに4℃の平均気温の上昇が見込まれる。農作物の収穫の減少や熱帯性伝染病の北上、水不足、豪雨などは、2℃上昇した段階で起こるとされている。
こうした温暖化の原因は大量の二酸化炭素の排出で、化石燃料の使用によって毎年72億トンの二酸化炭素が排出されている。これに対して、地球の吸収能力は森林と海を合わせて31億トンしかない。

★現象だけに目を奪われず、その構造や本質を考えるべき
しかし、気温を測ってそれだけに目を奪われるのではなく、本質的に何がどうなっているのだろうということを考えることが大切だ。これがシステム思考というもので、出来事の時系列パターンや構造、メンタルモデルまで掘り下げて考える必要がある。このまま何も変えずに、このままの暮らし、社会、経済を続けていったらどうなるか、なぜ続けようとする力が働くのか、を考えるということ。

★地球温暖化問題においても、ピンチはチャンス
『不都合な真実』の中でアル・ゴアさんも語っているように、地球温暖化問題は、人類にとって史上最大のチャンス。時代が動かざるを得ない、社会や経済の仕組みを変えていかざるを得ない、そういうときこそ、望ましい変化を大きくつくりだせるから。

最後に、“伝える力”として、伝えようという気持をもっていること、伝えるべき内容をもっていること、伝えるためのスキルをもっていることの3点が大事で、デニス・メドウズさんは、この点でもとてもすぐれているというお話で講演を締め括られました。
















デニス・メドウズさんは、『成長の限界』が刊行された1972年の時点で、持続可能性のためには、人口と物質消費の増加に歯止めをかけなければならないと提言していました。しかし、現実としてその提言は受け入れられず、従来のままの“成長”が続けられてきました。その結果としての現状の解説から、講演ははじまりました。
地球の現状について、デニス・メドウズさんのお話の内容をまとめます。

★成長の限界を超えてしまった人間の活動
いま世界はすでに成長の限界を超えた地点にある。人間の活動は地球の扶養力の範囲を30%以上も超えている。1972年の段階でコンピュータモデルを使って予想したものと似ている現実がある。
102名のノーベル賞受賞者を含む70ヵ国の1600人以上の科学者たちが、人類と自然界は、このままでは衝突してしまう、根本的な変化が焦眉の急である、と提言している。
先週の金曜日(11月9日)に出されたIPCCの最新の報告でも、いま根本的な変化をしないと、気候変動で難しい状況になるとされている。
世界の約36ヵ国が深刻な食糧危機に直面している。
成層圏のオゾン層に開いたオゾンホールは今年、人類史上かつてないほどの大きさに達している。
将来に関わる部分では次のようなお話がありました。

★目前に迫っている資源の枯渇と混乱
乱獲と汚染が現在のまま続けば、あらゆる海産物は2048年には崩壊してしまうだろう。
今世紀半ばには、60ヵ国の70億を下らない人々が水不足に直面するかもしれない。
気候変動を無視することで、大戦争に伴うのと同じ規模の混乱が経済的・社会的活動に及ぶリスクを生みかねない。
今後25年の変化は、過去100年の変化を大きくしのぐものとなるだろう。
とくに石油資源について、かなりの時間を割いてお話がありました。要点だけをまとめると以下の内容でした。

★少なくとも現在レベル以上、石油資源に頼ることはできない
世界の石油生産量は、今年はじめにピークに達した可能性がある。
今後25年以内に産油量は半分以下になるだろう。
石油が枯渇すると、食料価格が上昇する、飛行機自動車による移動が減るなどのほかに、経済的、政治的、環境的なコストが高くつくようになる。
私たちが生き続けているかぎり石油価格は値上がりを続け、近い将来に数倍になるだろう。
しかし、社会と私たちの習慣(ライフスタイル)が根本的な変化を遂げた場合のコンピュータモデルによる予測では、持続可能な、バランスのとれた地球はまだ可能であると、デニス・メドウズさんはいいます。そのためのシナリオのひとつです。

★消費型のライフスタイル・習慣の根本的な転換を

たとえば二酸化炭素を排出し、枯渇が予測されてもいる化石燃料の問題に対して、4つの要素からの対策が考えられる。「人口」「文化規範(ライフスタイル・習慣)」「効率性」「再生可能エネルギー」がそれで、「効率性」と「再生可能なエネルギー」は技術の分野としてまとめることができる。
京都議定書が決議されて10年経った現在は、もっぱらこの技術の分野での対策が行われている。「人口」「文化規範(ライフスタイル・習慣)」の分野にはまったく手がつけられていない。
しかし化石燃料の消費を減らし、その他食糧不足などの問題にも対応していくには、文化規範の根本的な転換も行っていかなければならない。
ここで腕の組み方を使った簡単なエクササイズで、習慣を変えるということを会場の皆さんが実際に体験してみました。自然に腕を組んだときに上になる手首を、逆に下になるように組むというものです。なかなか上手くいきません。デニス・メドウズさんはこう指摘します。
習慣を変えることは可能だけれど、実行の前によく考え、試してみないといけない。そして新しい習慣は、それに馴れないうちは心地よくないかもしれない。

★問題の理解のしかた、捉え方について
人間は長いあいだ、短期的に良いことが長期的にも良い結果になる問題(簡単な問題)のなかで生きてきた。
しかし、持続可能性や環境については、短期的に良いことが長期的に悪い結果になる問題(難しい問題)が多い。こうした場合には、評価までの時間軸を伸ばすことと、システム思考でよりよく理解することが効果的である。

講演の最後にデニス・メドウズさんが強調しておられたのは、行動することの大切さです。“言葉より行動の方が重要”とさえおっしゃっていました。35年前から警告を発し続けていらっしゃるデニス・メドウズさんの想いが強く伝わってきました。
















対談の予定時間は、わずか25分。お2人には申し訳ないほどの短さです。そのなかで枝廣淳子さんは、ついいましがたのデニス・メドウズさんの講演について的を射た補足をされ、また会場の皆さんを代表して質問をしてくださいました。

★デニス・メドウズさんの講演の補足として語られたこと
地球温暖化は一つの症状であって、根本は有限な地球の上で無限に成長をしようとしていることにある。
“難しい問題”に対して評価の時間軸を伸ばすということでは、日本特有の壁として官公庁や企業における2、3年ごとの異動がある。それ以上に時間がかかるものについては後任者の迷惑になってしまうので、やってはいけないという暗黙の諒解がある。
ピーク・オイル、つまり石油採掘量が最大に達したのちの問題は、海外では注目されているものの、日本ではほとんど話題になっていない。一度、企業や組織でエネルギーコストが5倍になったらどうなるのかをシミュレーションしてみるといい。
足るを知る、もったいない、という文化。たとえもっと得られるとしても、これで十分だといえる文化を、たぶん日本はもっているのではないかと思う。
デニス・メドウズさんへの質問は、これまで温暖化問題とエネルギー問題を分けて考える傾向があったが、どちらを優先しても弊害が起こりがちに思われる、その両方に役立つ考え方、事例がないのでしょうか、というものでした。

★エネルギー問題に、いますぐ対応すべき
世界を見回しても、国レベルで現実的な理解をもって、温暖化、エネルギーの問題に取り組んでいる例を見たことがない。
たとえば、日本にはたいへんすぐれたエネルギー効率化の技術がある。しかしエネルギー効率をどんどん高めて、それで物質消費を増やしながら生活水準を上げている。つまり持続可能性という観点では矛盾している。
また、実際にエネルギーがなくなってから何とかすればよいという姿勢もしばしば見られるが、それでは遅すぎる。問題に今すぐ対応することが求められている。
最後に、デニス・メドウズさんの活動の原動力は、少しでもいまの状態をより良くしようと思うことだというお話があり、お互いに助け合う人々のネットワークこそがパワーをもっているという、バラトングループの理念についてもふれられました。
それを受けて、この北海道においてもそうしたネットワークをつくり、持続可能な未来へのうねりをつくりだしていきたいと、枝廣淳子さんが締め括りの言葉を述べて、対談が終了しました。

デニス・メドウズさん、枝廣淳子さん、慌ただしいプログラムにも関わらず、誠実、真摯にお話しをいただき、本当にありがとうございました。未来を考える一人ひとりへの励ましと示唆に満ちたひとときでした。
会場にお越しいただいた皆さんにも心からの感謝を送りつつ、これでこのレポートを終了させていただきます。

※バラトングループ
デニス L. メドウズ氏と、元パートナーのドネラ H. メドウズ氏(2002年没)によって、26年前にシステム・ダイナミクスやシステム思考の専門家グループとして立ち上げられました。現在、世界各国およそ300人のメンバーが参加・連携し、地球的課題に取り組んでいます。枝廣淳子氏もメンバーの一員。